都市空間で進化する照明制御のかたち──SENMUがつなぐ建築と演出の架け橋
2025/07/01
導入にあたって
先日、東京都墨田区・両国にて、大光電機が開催する無線照明制御システム「SENMU(センム)」の勉強会に参加する機会がありました。普段から建築照明や演出照明の現場に携わっている者として、最新の技術がどのように空間づくりに貢献できるかを知るうえで非常に有意義な時間となりました。
今回の勉強会で感じたのは、SENMUという技術が単なる「便利な無線制御システム」にとどまらず、建築照明とステージ照明という異なる分野のあいだにある隔たりを埋め、両者をなめらかに統合する力を持っているということです。
その背景には、照明にまつわる文化的・技術的な違い、施工や設計における現場課題、そしてクライアントの多様化するニーズなど、さまざまな要因があります。本稿では、そうした文脈の中でSENMUというシステムがどのような可能性を持ち、どのような場面で導入が効果的であるかを、技術的特徴とともに掘り下げていきたいと思います。
建築照明とステージ照明の“距離”
無線照明制御システム「SENMU(センム)」について語る前に、照明業界における大きな構造的課題を明らかにしておきたいです。それは、「建築照明」と「ステージ照明」の間に存在する、見えにくい距離感です。
照明の世界には、同じ"光"を扱いながらも、文化や目的の違いによって明確に分かれた領域が存在しています。その代表例が「建築照明」と「ステージ照明」です。両者ともDMXと呼ばれる共通の制御プロトコルを使うことがありますが、実際には用いる機器、制御思想、用語、そして価値観そのものが大きく異なっています。
DMX(ディーエムエックス/Digital Multiplex)は、主に舞台照明の世界で発展してきた制御規格で、色や明るさを自由に変化させることが可能です。建築照明の分野でも、動的な演出を必要とする場面ではDMXが使われることがあります。しかし、ステージ照明がリアルタイムでの操作や劇的な演出に特化しているのに対し、建築照明では常設性や保守性、環境との調和が重視されるため、設計思想そのものに違いがあります。
たとえば、演劇やライブなど、短期間でのインパクトが重視されるステージ照明では、照明器具の動きや色彩の変化が視覚的な演出の核になります。対して、建築照明は「照らす」ことの持続性や日常性が重視され、長期的な視点での信頼性・安全性が不可欠です。DMXという共通言語を使っていても、そこに込められる意味や目的はまったく異なります。
舞台照明では「パッチ」「キュー」「フェーダー」といった言葉が頻繁に登場し、即時的な操作に重きが置かれています。一方、建築照明では「回路」「ゾーン」「スケジュール」といった長期的な運用を前提とした設計概念が主流です。これらの言葉の背景にある思想の違いは、技術的な隔たり以上に文化的な距離を生み出しています。
さらに、ステージ照明はその場にいる観客に向けて、意図的かつ直接的に感情を操作するためのツールであるのに対し、建築照明は空間の居心地や雰囲気を左右する「背景装置」として機能する傾向があります。どちらが優れているということではなく、目的に応じてまったく違う進化を遂げてきたという点が重要です。
こうした“異なる文化圏”を理解したうえで、両者を繋ぎ、融合していく方法を模索することが、私たち照明設計者にとっての新たな挑戦でもあります。
SENMUの構造と技術的特徴
無線照明制御システム「SENMU(センム)」は、大光電機が独自に開発したBluetooth(ブルートゥース)メッシュ通信方式を用いた無線制御システムです。この方式は、機器同士が網目状に通信を中継しあう構造をもつため、配線の自由度を格段に高め、遮蔽物の多い都市建築でも安定した通信が可能です。
この無線ネットワークは、設計段階から照明デザイナーや調光制御技術者が介在することで、空間の用途や演出の方向性に合わせて最適な設定が行われます。つまりSENMUは「誰でも簡単に操作できるシステム」ではありませんが、その代わり、意図を持った高度な照明制御を実現できるという特徴を持っています。
一度設定が完了すれば、日常の運用は非常にシンプルです。施設管理者やオペレーターは、決められたスイッチ操作やシーン切り替えのみで空間全体の照明演出を自在に制御でき、日々の操作に複雑な知識は不要です。
特に100〜300台規模の照明器具を使用する中〜大規模空間では、従来のダイヤル式調光に比べて機器の集約や施工面での簡素化が可能となり、結果としてイニシャルコストを抑えられる可能性もあります。
もちろん、導入には専門技術者の関与が不可欠である分、一定の初期コストはかかります。しかし、その分空間の個性を引き出し、光によって場の価値を高める設計が可能となります。設計意図の伝達、機器の性能活用、建築との調和といった要素を照明制御にまで一貫して反映させることで、クライアントにとって本質的な価値を提供できると私たちは考えています。
都市型空間における照明制御の課題と展望
近年、都市空間における照明設計の重要性はますます高まりを見せています。人口が密集し、限られたスペースでの効率的かつ感性的な空間演出が求められる都市部において、照明は単なる設備ではなく「体験の装置」として再定義されつつあります。
とりわけ、東京都のように再開発とリノベーションが同時進行で進む都市では、照明に求められる役割も多様化しています。商業施設、オフィス、集合住宅、文化施設といった複合的な用途が同一エリア内に混在し、それぞれに適した光環境が同時に求められるという状況が生まれています。
こうした環境では、従来型の有線照明制御では施工性や拡張性に限界があり、ユーザーのニーズに応えきれないケースも増えています。その中で、無線照明制御システム「SENMU(センム)」のような柔軟性と拡張性を兼ね備えたシステムが、都市型プロジェクトにおいて設計者が直面する課題を解決する有効な手段として注目されています。
たとえば、東京都内のリノベーション物件においては、既存の建築構造を壊さずに照明システムを導入・更新できる柔軟性が評価されています。さらに、設計者が意図する空間演出を、配線制約などに縛られることなく実現できる点は、感性重視の空間づくりにおいて大きな武器になります。
SENMUが提供するシーンコントロールやタイムスケジュール機能を活用することで、昼と夜、営業中と閉店後、あるいはイベント時と通常時など、多様な光の表情を一つのシステムで管理することができます。これは、都市生活のテンポに合わせて空間を変化させる必要がある東京都のような都市において、非常に有効なアプローチです。
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有限会社ダイユー
住所 : 神奈川県川崎市高津区千年727
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東京にて照明設計や施工サポートを実施
東京にてニーズに応じた設計
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